この住宅は隣接し合う空間との間に各部屋の隅を取る空間が挿入されている。それによって隣り合う空間との境界が曖昧になり、全体が緩やかにつながっている。
また、この住宅では部屋を他者と振り分けたり、生活パターンやパブリック/プライベートによって部屋を使い分けたりするのではなく、アクティビティや他者との相対的な関係によって空間の使い方や適度な距離感が見いだされる。それが住宅の中の風景である。
この住宅には若い夫婦と小学生くらいの子供が1人住む。
夫は打ち合せなどで外に出ることはあるが基本的には自宅で仕事をする。仕事上自宅へお客さんが来ることもある。妻は働きに出ていて、朝都心にある会社に出勤し、夕方帰宅する。子供は電車に乗って私立の小学校に通っている。
夫婦はそれぞれに趣味があり、家の中では思い思いに過ごす。この住宅では家族のそれぞれが別のことをしていても、逆に心地良い距離感で生活できる。例えば夫が仕事をしていても、妻が家事をしていたり、子供が遊んでいたりしても街の中にいて何となく周囲の気配が分かるような感覚になり、周囲に対して神経質にならずにいられる。
また、この住宅ではアクティビティによって空間を分け与えたり、もらったりという使い方があり、空間全体がここに住む家族と呼吸を同期させているように感じられる。